「岬くんがあんなにみんなの人気者だなんて知らなかったわ」

学校からの帰り道。彩乃は少し頬を膨らませて不満を口にした。中学時代にも岬を慕う子たちがグループを組んでいたことは知っていたが、高校に入り、新たに岬の甘いルックスに惚れた女の子たちが、岬のファンクラブを作っていた。それがどうもお気に召さないらしい。中間テスト前の小テストでもどの教科でも常に満点を取っていて、それだけでクラスメイトからの信頼は厚かった。

(まあ、秀でている者はおのずと人を寄せ付けてしまうもんなんだよな)

ふ……、と心からの笑みがこぼれる。彩乃に服従して以来、こんなに爽快な気分になったことはなかった。金の力で岬を執事にした彩乃が、岬の魅力で勝ち取った地位を羨ましがる。なんて滑稽で愉快なんだろう。心がおおらかになるというものだ。

中間テストが終われば、球技大会も行われる。岬の活躍は文武の面で間違いなかった。



ところがその中間テストの結果発表の日。廊下に張り出された順位表の一番上に書かれていた名前は岬ではなかった。

「宮田彩乃さん……?」

「C組の子だよ。あの金持ち私立中学から入ってきた子」

「ああ、総代だった子」

「岬くんよりも上がいるなんて、信じられない」

順位表の前で呆然としていると、背中をポンと叩かれた。秀星だ。

「よお。彩乃さんに勝てなかった、岬くん」

「うっせーよ。お前なんか十位にも入ってねーじゃんか」

「良いんだよ、俺は。お前らと張り合うつもりはねーから」

じゃあ、俺と彩乃の勝負にも黙ってろ、と思ったけど、それは口に出来なかった。彩乃が順位表を見に来たのだ。