「あの」

「なあに?」

今後の高校生活を平穏に過ごすために、これだけは頼んでおきたい。

「……学校では彩乃さん、とお呼びしても良いですか?」

岬の言葉に彩乃はぱちりと瞬きをした。

「学校でお嬢さまはおかしいかしら」

「同学年ですし……」

「そっか……。そうよね……」

少し、つまらなさそうに口を尖らせたように見えたのは、岬の被害者意識がそう見せたのだろうか。それにしては、そうね、と頷くのに間があった。

(学校でまで、下僕気分を味合わせるんじゃねえっ!)

そう思っていたら、彩乃が頷いた。

「分かったわ。名前で呼んで頂戴」

取り敢えず許しが出てほっとした。兎に角、彩乃の機嫌を損ねないように、かつ、岬の高校での地位を守る。そのうえで、父親たちの借金を返す手助けをしなければならない。なかなかハードな高校生活になりそうだ、と岬は思った。