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「長門さん…!」
「陽菜!」

飛び起きると見慣れた部屋のベッドの上で、戻ってきたのだと実感したのは、いつもの長門さんの姿が目の前にあったからだった。この人はまだ生きているのだと痛感し、それと同時に色々な想いが込み上げてきて、私からぎゅうっと長門さんを抱きしめた。

「お前が波に飲まれたと聞いたときは肝を冷やしたが、無事で良かった…」
「はい、私はちゃんと生きています…」

そして長門さんも生きている。その事実が堪らなく愛しく感じて、尊いものだと思った。長門さんの腕の掴み、ぐっと腰を落とさせてそのまま唇を合わせた。初めは私の行動に驚いた長門さんもそれを受け入れ、お互いの生きている温もりを感じることに専念した。時折、唇を離しては、また合わせる。その繰り返しだった。

「…いきなりすみません」
「謝ることではないだろ。…ほら、もう一回、」
「…ん、」

「お二人さん? とくにお兄ちゃん? 私がいること覚えてる?」
「っ、陸奥ちゃん」

そのまま場の空気に飲まれそうになったところで、陸奥ちゃんの静止が入った。話を聞くと、私が海に落ち意識を失ったことを長門さんが陸奥ちゃんに伝えてくれたらしく、それを聞いた彼女は急いで来てくれたとのことだった。
今までの行動を見られていたと認識すると恥ずかしさが込み上げてきて、私は毛布に潜った。

「お兄ちゃん、良かったね。お兄ちゃんが誰かを大切に想うことができる人だって分かって私は嬉しいよ。いっつも他人と一線引いてるような人だったから」
「まァな」
「…陽菜ちゃん、ありがとね。お兄ちゃんが戦艦の依り代だって知ってるのに、受け入れてくれたんでしょ? 陽菜ちゃんがお姉ちゃんかあ」
「あの、陸奥ちゃん? ちょっとそれは気が早いんじゃないかな…」

近いうちに、私は未来へ帰ることになるのだろう。この時代に来て、両手には抱えきれないほどのものを貰った。経験も、感情も、令和に居たままでは手に入れることができなかったものたちだ。未来へ帰っても、ここでの全てを忘れないようにしよう。私の友達を、私の好きな人を。
ちらりと長門さんを見る。幸せになってくれと最期を迎える長門さんは言っていた。

(でもね、長門さん。きっと私はあなたの隣じゃないと、幸せになんてなれないと思うの)

幸せになるという約束だけは守れそうにないと心の中で長門さんに詫び、一緒に波に飲み込まれた他の乗組員さんのお見舞いに行こうとベッドから抜け出したのだった。