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「おい、大丈夫か?!」
聞き慣れた声がして目を覚ました。どうやら私は生きているようで、その事実に胸を撫で下ろした。ぼんやりとした視界が晴れ、目に映ったのは長門さんの姿だった。
「あ…長門さん、」
海に落ちたのにも関わらず、私の身体は濡れていなかった。身体を起き上がらせて、辺りを見回すと今までいた景色とは違うことに気が付いた。
「ここは…」
「お前はいままでどこに居た?」
「甲板で作業をしていて…、波にさらわれて…」
私がそういうと長門さんは顎に手を当て、「あの時か…」と小さく呟いた。
「? どういうことですか?」
「陽菜。ここは先程までお前がいた時間ではない。もっと先の、…終戦後の時間だ。尤も、時代を越えてやってきたお前にとっては驚くことではないかもしれんが」
そう言って笑みを浮かべる長門さんは少し疲れた顔をしていた。終戦後、それは、日本が負けた後ということ。
「歴史は覆せないな。お前が云っていた通り、日本は負けた」
「…長門さんはこれからどうなるんですか」
歴史で日本が負けたことは知っていたものの、日本が所有していた軍艦がどのような末路を辿ったのかは分からなかった。記念艦となり現存しているフネがあるのは何かで見たことがあるが、彼ではなかったということは、つまり、そういうことなのだろう。つん、鼻の奥が痛む。
「…俺は終戦後、接収され、こうして実験の標的艦となった。二度食らい、かろうじて浮いてはいるが浸水も始まっているからもう長くはないだろう。最期にお前に会えるとは、嬉しいぞ」
その言葉を聞いて、思わず私は長門さんに抱きついた。
長門さんが、死ぬ。頭のどこかでは分かっていたことだった。覚悟はしていた。それでも、それでもやはりどうにも苦しいもので、どうせなら私も連れていってほしいとさえ願ってしまう。
「決して長くはない時間をお前と過ごし、そして俺はお前を愛した。お前が未来へ帰るその時まで言葉にはできなかったが、一人の男として愛していた」
「長門さん…っ、」
「愛している、陽菜。過去の俺に会ったら一発殴ってくれても構わない。こんな最期にしか、お前に伝えられないんだから。…ずるいよなァ、俺は」
抱きついていた身体を引き剥がされ、思わず長門さんを見上げると、唇に温もりが降ってきた。初めは優しいそれも、次第に感情をぶつけるかのような荒々しくも切ないものへと変わっていく。
「……、お前は未来で生きろ。幸せになってくれ」
「っやだ、私、長門さんと一緒に生きたい。好き、私、長門さんが好きなの、」
「お前が俺を覚えていてくれるなら、俺はずっとお前の中で生き続ける。すまない、一緒に生きてやれなくて。俺だって叶うことなら一緒に生きたかったんだ」
すう、と身体が軽くなる感覚がした。
「愛している! 俺はお前と出会えて幸せだった!」
私も、という言葉はついに音になることはなく、世界が弾けるように私の意識は途絶えた。
「おい、大丈夫か?!」
聞き慣れた声がして目を覚ました。どうやら私は生きているようで、その事実に胸を撫で下ろした。ぼんやりとした視界が晴れ、目に映ったのは長門さんの姿だった。
「あ…長門さん、」
海に落ちたのにも関わらず、私の身体は濡れていなかった。身体を起き上がらせて、辺りを見回すと今までいた景色とは違うことに気が付いた。
「ここは…」
「お前はいままでどこに居た?」
「甲板で作業をしていて…、波にさらわれて…」
私がそういうと長門さんは顎に手を当て、「あの時か…」と小さく呟いた。
「? どういうことですか?」
「陽菜。ここは先程までお前がいた時間ではない。もっと先の、…終戦後の時間だ。尤も、時代を越えてやってきたお前にとっては驚くことではないかもしれんが」
そう言って笑みを浮かべる長門さんは少し疲れた顔をしていた。終戦後、それは、日本が負けた後ということ。
「歴史は覆せないな。お前が云っていた通り、日本は負けた」
「…長門さんはこれからどうなるんですか」
歴史で日本が負けたことは知っていたものの、日本が所有していた軍艦がどのような末路を辿ったのかは分からなかった。記念艦となり現存しているフネがあるのは何かで見たことがあるが、彼ではなかったということは、つまり、そういうことなのだろう。つん、鼻の奥が痛む。
「…俺は終戦後、接収され、こうして実験の標的艦となった。二度食らい、かろうじて浮いてはいるが浸水も始まっているからもう長くはないだろう。最期にお前に会えるとは、嬉しいぞ」
その言葉を聞いて、思わず私は長門さんに抱きついた。
長門さんが、死ぬ。頭のどこかでは分かっていたことだった。覚悟はしていた。それでも、それでもやはりどうにも苦しいもので、どうせなら私も連れていってほしいとさえ願ってしまう。
「決して長くはない時間をお前と過ごし、そして俺はお前を愛した。お前が未来へ帰るその時まで言葉にはできなかったが、一人の男として愛していた」
「長門さん…っ、」
「愛している、陽菜。過去の俺に会ったら一発殴ってくれても構わない。こんな最期にしか、お前に伝えられないんだから。…ずるいよなァ、俺は」
抱きついていた身体を引き剥がされ、思わず長門さんを見上げると、唇に温もりが降ってきた。初めは優しいそれも、次第に感情をぶつけるかのような荒々しくも切ないものへと変わっていく。
「……、お前は未来で生きろ。幸せになってくれ」
「っやだ、私、長門さんと一緒に生きたい。好き、私、長門さんが好きなの、」
「お前が俺を覚えていてくれるなら、俺はずっとお前の中で生き続ける。すまない、一緒に生きてやれなくて。俺だって叶うことなら一緒に生きたかったんだ」
すう、と身体が軽くなる感覚がした。
「愛している! 俺はお前と出会えて幸せだった!」
私も、という言葉はついに音になることはなく、世界が弾けるように私の意識は途絶えた。