その、翌日。


 高校に着いて、下駄箱の中をのぞくと、そこにあるはずの上履きがなかった。

 …昨日、間違えて持って帰ってしまったのだろうか?

 私は仕方なく、来客用の緑のスリッパを履くと、そのまま教室へと向かった。



 その日の放課後。


「桜庭さん、ちょっといい?」


 委員会の仕事は昼休みに済ませたので、帰る支度をしていると、立花里穂さんに声をかけられた。


「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど。」


 立花さんは、自分の机の上に載っている大量のプリントを指さして、言った。


「これ。職員室に運んでおいてほしいんだけど。」

「え、別にいいですけど…立花さんが運ばなくていいんですか?」

「今日さ、この後予定があるんだよね。だからさ、ね?」

「え、でも…。」

「でもって何?できないって言うの?」


 立花さんの声が、低くなった。

 私は慌ててかぶりを振った。


「いえっ…。運んでおきます。任せてください。」


 精一杯の笑顔で、そう言った。

 立花さんは満足そうに微笑むと、何人かの女子生徒を引き連れて、教室を出ていった。


「すげえ量。音葉、それ、1人で持てんの?」


 声をかけてきたのは、隼人だった。


「これぐらい持てるよっ。」


 そう言って、立花さんの机上のプリントたちを、両手で抱えるようにして持つ。

 本当にすごい量。

 腕がちぎれてしまいそうだ。


「手伝ってやってもいいんだぜ?」

「余計なお世話っ。」


 私は強がって、全てのプリントを抱えたまま、教室を後にした。