「音葉ってさ…将来の夢とか、あんの?」


 隣を歩く隼人が、突然そう言った。


「何、突然。」

「なんとなく。他に話すこともないし。」

「将来の夢、かあ…。」


 これからの未来のことなんて、真剣に考えたことは1度もない。

 私の夢…?


「とりあえず、幸せになることかな?」

「具体的には?」


 私にとっての、幸せとは。


「うーん…。1番好きな人の1番になること、とか?」

「何、お前。好きなヤツとかいんの?」


 隼人が、意地悪な笑みを浮かべて訊ねてくる。


「いないけど…。」

「そんなことだろうと思った。」

「は?どういう意味?!」

「…音葉って、本当からかいがいがあるよな。」

「何それ褒めてるの?バカにしてるの?」


 隼人が、声を上げて笑う。

 つられて、私も笑った。


「そういう隼人はあるの?将来の夢。」

「俺?特にないけど?」

「え。なんかずるくない?」


 そんな他愛のない会話を繰り返しているうちに、私の家にたどり着いた。

 三角屋根にクリーム色の壁の家が、私の家。

 その隣に建つ四角い家が、隼人の住む家だった。

 つまり私たちは、『お隣さん』同士なのだ。


 軽い挨拶を交わして、私と隼人は、それぞれの家へと入っていった。


 そういえば、隼人とこんなに会話をしたのは、初めてかもしれない。

 隼人の笑顔も、久しぶりに見た。

 顔をクシャっとして笑っていても、隼人はイケメンだった。


 にしても何で、突然将来の夢なんて聞いてきたんだろう?


『1番好きな人の1番になること。』


 なんとなくでそう答えてしまったけれど、私の1番好きな人って誰だろう?