「は、隼人…?」


 隼人が、私の真後ろに立っていた。

 冷たい目で、中沢くんのことを見下ろしている。


「無理って?どういう意味?」


 中沢くんが怪訝そうな声で訊ねる。


「岡田君だっけ?君には関係ないだろ?」

「それが大アリなんだよね。」


 隼人が意地悪い笑みをつくる。


「悪いけど、こいつは諦めて。」


 隼人が、私の頭の上に、大きな手をポンと置く。


「こいつ、俺の彼女ですから。」

「え、」


 中沢くんがひるむ。


「もう1度言いましょうか?俺、こいつの彼氏なんです。」

「そんな、噓だ。だって桜庭さん、さっき好きな人はいないって…。」

「じゃ、そういうことなんで。音葉、行くぞ。」


 そう言うと、隼人は私の手首をつかんで、強引に引きずっていった。


 頭の理解が追い付かなかった。

 何、今の、どういうこと?


『こいつ、俺の彼女ですから。』

『俺、こいつの彼氏なんです。』


 何それ。

 隼人が私の彼氏?

 ありえない。

 笑えない冗談だ。

 隼人はいったいどういうつもりで、


「お前さあ、バカなの?」


 隼人が突然そう言った。


 私はその声で我に返る。

 いつの間にか、私たちはもとの1年1組の教室まで戻ってきていた。


 ん?

 バカ?

 バカとは何だ、バカとは。

 確かに私はバカだが、そんなどストレートに言われたら傷つく。


「ちょっと、バカって、」

「超バカじゃん。お前、あいつの誘いに乗ろうとしてただろ。」

「あいつって、…中沢くん?」

「よく知りもしない相手の告白を受けようとするなんて…バっカじゃねえの?」


 隼人は、いつにも増して不機嫌そうだった。