そして放課後。


「音葉、今日はどこ掃除すんの?」


 いつも通り、隼人が声をかけてくる。

 心なしか、彼の声には元気が無いような気がした。


「今日はね、音楽室の…、」


 そこまで行って、私は、あのメモの存在を思い出した。


『放課後に、校舎裏に来てください。』


 そうだ。

 私、呼び出されてたんだった。


「ごめん隼人、ちょっと待っててくれる?」

「はあ?お前、この俺を待たす気?」

「ごめん、本当に用事あるから、またあとで!」

「はあぁ?!」


 不機嫌な隼人をよそに、私は校舎裏に向かって駆け出した。

 …スリッパだと走りにくい。





「…桜庭さん。来てくれてありがとう。」


 校舎裏で私のことを待っていたのは、同じクラスの眼鏡をかけた男の子だった。

 確か席は…私のななめ前だったはずだ。

 名前は何だったけ。

 悠馬(ゆうま)だったか悠人(ゆうと)だったか。


「僕のこと、覚えてる?」


 彼は、少しおどおどしながら、私に質問してくる。

 人見知りなのかな?


「えーっと…。同じクラスの、ゆ、ゆう、」

「覚えててくれたんだね!そう、僕、中沢(なかざわ)悠也(ゆうや)!」

「あー、そっちね…。」

「え、どっち?」

「あ、いやいやなんでもない、こっちの話。」


 うっかり悠馬だなんて口走らなくてよかった…。


「何かお話があるん、だよね?」

「ああそうそう、桜庭さん、実は、僕ね、」


 中沢悠也くんは姿勢を正すと、私の目を見据え、おもむろに口を開いた。


「桜庭さんのことが好きなんだ。付き合ってほしい。」