「僕さ、あの子、気に入っちゃった。」


 隼人にそう告げると、彼は目を大きく見開いた。


「ど、どういう意味だよ…。」

「そのままの意味だよ。僕、音葉ちゃんのこと気に入っちゃった。」


 隼人は、射るような目つきで僕をにらんでいる。


「音ちゃん、可愛いし、いい子っぽいし。」

「…何が言いたい。」

「気に入ったっていうか、むしろ好きかも。いや、好き。」


 目の前にいる弟の顔が、少しずつ青ざめていく。

 ビンゴだ。

 隼人は間違いなく、音ちゃんに恋をしている。

 たぶん、幼稚園ぐらいの時から、ずっと。


「僕、初めてなんだよね。こんな気持ちになるの。恋する気持ちって言うの?」

「そ、そんなことを、なんでわざわざ俺に言う。」

「だって隼人は一応、音ちゃんの幼なじみなんだからさ。」


 『一応』の部分を、強調して言った。


「ただの友達なんでしょ?だったら別にいいよね、」


 精一杯のドヤ顔で、嫌味ったらしく、僕は言い放った。


「僕が本気で、音ちゃんのこと狙いに行っても。」

「っ、いいわけっ!」


 隼人が、しまったというような顔で、口を両手で押さえる。


「べ、別にいいんじゃね?兄貴が誰を狙おうと兄貴の自由だろ。俺に決める権利ねえし。好きにすれば?」


 動揺を隠すかのように、隼人がまくしたてる。


「じゃあ、遠慮なく。」


 隼人は乱暴に自室のドアを開けると、中へと姿を消した。


 さあ、これで準備は完了。

 弟にも宣戦布告したし、明日から堂々と、


 音ちゃんを落としにかかる。