俺と音葉がまだ5歳になるかならないか、とにかくチビだったころ。
音葉が急に、こう言ったことがある。
「わたし、しょうらい、はやとくんのおよめさんになるっ!」
当時も、そこまで仲が良かったわけではない。
それなのに、なぜ音葉がそんなことを言ったのか。
今でも解明できていない謎だが、俺はその時、舞い上がってしまうほど嬉しかった。
音葉は高校生になった今でも、そのことを覚えているだろうか。
気になった俺は、ある日、それとなく聞いてみた。
「音葉ってさ…将来の夢とか、あんの?」
今思えば、全くさりげなくなどない。
音葉はしばらく戸惑っていたが、やがて、可愛すぎる笑顔で答えた。
「うーん…。1番好きな人の1番になること、とか?」
びっくりした。
音葉に、彼氏でもできたのかと思った。
それは、俺の思い過ごしだったようだが、油断はできない。
前にも言ったとおり、音葉は絶世の美女だ。
スタイルもそこそこだし、性格は超良い。
当然、男子からの人気は高かった。
音葉本人は、持ち前の鈍感さで気づいていないようだが、彼女はものすごくモテる。
いつ、他の男に音葉を取られてしまうか。
そう考えると、怖くて仕方がない。
それなら、取られてしまう前に、音葉を俺のモノにしてしまえばいいじゃないか。
そう思うが、なにしろ俺はプロのヘタレだ。
自分からの告白なんて、怖くて怖くて絶対にできない。
だから俺は未だに、音葉と、知り合い以上友達未満の関係を保ってしまっているのだ。