高校に進学した俺は、ラッキーなことに、音葉と同じクラスになった。

 毎日毎日、2つ前に座る音葉の後ろ姿を見て、思う。


 …可愛いなあ。


 できることなら、音葉ともっと関わりを持ってみたい。

 たくさん話して、一緒に下校して、そしていつか、


 俺だけのモノにしたい。


 このままずっと片想いしているだけなんて、そんなの嫌だ。

 高校生になったことをきっかけに、音葉に少しでも近づきたい。


 だから、美化委員に自ら立候補した。

 何かと理由をつけて、何とか音葉と一緒の委員会に入ることができた。


 美化委員の仕事は、正直言って面倒くさい。

 でも、それも、音葉と一緒なら、楽しいものに変わった。


 美化委員の仕事をするうち、音葉に何度か、服を汚されたことがある。

 別に、嫌じゃなかった。

 それなのに俺は、どういうわけか、気が付いたら、音葉に冷たく当たっていた。


「ごめんで済むのかよ。」

「昨日お前が汚したんだろーが!」


 …なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。

 あの時の音葉の目は、ひどく怯えた色をしていた。

 そんな音葉も、とんでもなく可愛かった。


 その後、俺は、音葉のジャージを着て帰ることになった。

 あの時の幸福感を、ジャージに少しだけ残っていた音葉の体温を、今でもよく覚えている。