バレンタインの奇跡

雅との時間は、1日1日が凄く大切。

だからね、1秒だって無駄に出来なかった。

バレンタインまで、後3日ーー。


そろそろ、チョコの材料を買いに行かないとーー


私は財布と、ショッピング袋を持ちーー。


街に駆け出した。





あれ?



見知った後ろ姿。


雅?


私が知ってる雅で間違いない。

だけど、小さな女の子と手を繋いで歩いて居たからーー。


きゅ、と苦しくなる胸。


雅ーー
その人は?



私はぼんやり、と雅の後ろ姿を見つめた。

歪む視界の中。


雨が数滴、地面を濡らした。


違うーー。



私の涙だ。



私は現実に、逃げた。

向きを返し走り出す。






右から光る強い光が、私を包んだ。







そこからは真っ白でーー。


フワフワして、何も考えられなかった。



ーーーーーーーー

あれから話してない。

君にバレンタインチョコ渡す前に、居なくなるから。

"好き"も、、


"サヨナラ"も、、



言えなかった。




くだらない変わらない高校生活を過ごした。




そう、誰の目にも止まらない日々。




私は高校3年間いじめにあっていた。


みんながみんな、私を無視する。

まるで私が見えて居ないみたいな。
寂しくて、面白くなくて、くだらない3年間だった。



だけどーーーー1枚のハガキ。




中学の同窓会だ。



もしかしたら中学の同窓会に、雅が来るかも知れない。


私は雅に会いたくてーーーー
ハガキにサインし、同窓会出席に○をした。


「ーーーーここだ」

昔、友達といつか飲みに行きたいなって言っていた居酒屋。


外観がオシャレなカフェなのに、価格は安いと評判な居酒屋。

きたら、意外にも集まっていたし。
みんななんか、私より大人びて見えた。


私はなんかまだ、あの中学のまま、見た目も変わらない。
恥ずかしいぐらいだ。




居酒屋の中に進んできたら、案内されることは無く、私は中学の同窓会席をたやすく見つけた。


「あ、いた雅っ」



雅ーーーー。




やつれた?


「雅、よく来たな。」








何??



居酒屋の同窓会。

楽しい筈の、場所だけどーー何かが違った。



「雅が、元気出すために呼んだんだよ、うちら。

後これ」



友達のアキ。
そうだよ。

アキ。

アキだった。

あの日、雅のそばにいた女の子って。



いつから?

いつから付き合ってたの?



私はアキが手渡した物を見て驚いた。




だってーーーー、私の名前が書かれたプレートだったから。




「アキ、悪いな。

まだ、あの日のまま何も変わらない。
バレンタインに、"好き"を言いたかったのにな。

なんでーーーーみなみは、死んじゃったのかなっ」









えっーーーーー?







私、、死んでるーー?







歳を取らない私。








歳を取るみんな。









3年間、誰の目にも止まらない日々。



くだらない高校生活ーーーー。




私、、




未来に、私だけが居なかっただけだ。




過去のこと何一つ思い出せない。


私は、私はーーーー。




未来に私が居なかっただけ。
それだけ、変わらない真実。



みんながいるのに、私だけ居ない。





私だけ、未来に居ない。


寂しくて悲しくて、居たくなくて。

逃げ出そうとした。








「だからね、私達。
みなみの席作ったんだ。35人みんなでクラス会なんだよ。
そこに、雅が来てくれて良かったって思ってる」





アキ。。





私はアキが雅と付き合ってるって思ってたけど、違ったの?


アキの素振りは普通過ぎて、2人は何も無いように感じて、私だけーーバカみたいなんて、思った。



そうだよ。


私、すぐそばにいるのに、みんなは私に気づかない。

初めから私は、この世のものじゃ無かったんだ。




「俺は、あの日からずっと、渡したかった。


みなみにもらってばかりで、何も渡せてない」


雅。

私は何も渡してないよ。

アキと付き合ってるって思って、作らなかったチョコレート。


あの日、まっすぐ買い物に行っていたら私の未来は、あったかも知れない。


あの日、引き返した私。

あそこから全てが変わってしまった。


「これーーー。

いつもみなみからもらってばかりは嫌だから、作ったんだ。
初めて、チョコレート。
あの日、捨てようとして捨てれなかった。


もう食えないけど、みなみに渡したい。

渡して言えなかった言葉を伝えたいーー。」




雅ーー?



私は、雅幸せだよ。


本当は両想いだった。

なのに勘違いして、逃げてーー渡せなかったチョコレート。




あの日、気持ちだけってチョコレートを作って渡していたら何か変わっていたかな。



けど、あの日のバレンタインはもう。。






「ーーーー俺。




みなみに会いに行ってくる」





雅ーーーー?




雅が立ち上がった瞬間。



私は暗闇の路上にいた。






ここは、雅とアキがいた場所から数メートルの位置。


あの日、なんでーーーアキは雅と居たのか。



私は分からない。


雅と、私は両想いだった。








「自分で決められないとか、ダサっ」






えっーーーー?

聞き慣れた友人。
アキの声。

そばに雅がいた。



「うるせえな。
チョコレートなんか作ったことないんだよ。
だからって、買ったのはなんか。
みなみに渡して、"バイバイ"じゃなくて"またな"って言いたい。

そして、気持ち伝えたいーー」







視界が歪む。



私は、勘違いしてただけ。


アキと居たのは、付き合ってなんか居なかった。



「うわ、ノロケうざっ。

雅にみなみ、取られたらいやだけど、仕方ないしな。
人肌脱ぎますよ!!
バレンタイン、楽しみだねっ」




友人のアキは、優しく微笑んだ。


これが、真実だったんだ。



知らなかった真実ーーーー。


私は、雅とずっと一緒に居たかった。




「ーーーー雅が好きっ」








私は魂だけに、なったけどーー

空っぽだけど、


心は失ってない。


私は雅が好きだよ。






雅に会いたいーーーー。





会って好きって言いたい。









「ーーーーみなみ」








ーーーー!!






暗い路地裏で、私を呼ぶ優しい声。








「ーーーー雅。」






あの頃とは、少し変わって大人びた雅がいた。







「俺、みなみが好きだよ。



ずっと好きだった。
伝えたくて、チョコレート作ったんだ。

あの頃からずっと、渡せず
何度も捨てようとして無理だった。


ちゃんと持っていって。



そしてーーー忘れないで。



俺がいた事。





今も、ずっと好きなこと」



ーーーー私は、視界が歪むのを感じた。



私が渡したかったチョコレートは無い。


私が、雅に何を渡したら喜ぶ?




「雅ーーーー
ありがとう。

大好きだよ、サヨナラ私の大好きな人」



私は精一杯の笑顔を雅に見せた。


雅は驚いたように目を見張った。




そしてーーー雅に抱き締められた。



透明な私ーーーー。




この時だけ、私は生きてるように錯覚した。



私は、雅が好き。




バレンタインの日、私は雅に渡せなかったチョコの代わりに、雅が私にくれたチョコレートは、雅が目の前で火を付けた。



黙々と燃えてく箱と、チョコレート。



私は、燃えてくチョコレートを見つめた。


「ーーーー雅。

最後のお願い聞いて」






両想いだった私達。

だけど、雅の未来に私は居ない。



だからせめてーーーー。






「キス欲しい。

雅、好きだよ」





私の最後の願いーーーー。