菜々美はその場にしゃがみこんでしまった

「大丈夫だよ、さっきの人は自分でおこしてまた乗っていったよ」

海斗は菜々美を包み込んだ

「落ち着いて」

菜々美の背中をさすった

「立てる?」

菜々美は動かなかった

「成田、ここは人が多い、少し歩こう、俺に掴まって」

何とか立ち上がり、土手まで出てきた

「座ろうか、少しは落ち着いた?」

「……ごめん」

菜々美は足を抱えて顔を伏せた

俺が何か言ってもな、成田が落ち着くしか


「お母さんがね…バイクの事故で亡くなったの
だからバイクの倒れる音が嫌なの……」

「そっか……」

「せっかく楽しんだ後だったのにな……」

「また、楽しかったことを上書きすればいいんだよ」


また、海斗くんに迷惑をかけてしまった

あんな街中で泣くなんて

また悲しさがこみあげてくる

「ごめん、ごめんね…ぐすっ迷惑ばっかりかけて
電話での事を本当は真っ先に謝りたかった」

「いや……あれは俺も電話の時は勝手に切って悪かった、ごめん」

「ううん、私が悪いの、ぐすっ、ぐすっ」

「泣くなよ、いや、泣いてもいいよ、だって我慢してきた事沢山あるんだろ?」

菜々美は頷いた

「人前で泣くことなんてないだろ」

俺は成田をゆっくり抱きしめた

「うん、泣いてもいいぞ、見ないから」

成田は少しだけ声をあげて泣いた

菜々美は海斗の背中に腕を回してギューッと抱きついた

そうだよな、抱きしめてくれる人はもういないもんな



そう思ったら愛おしくなってきた