五月、暑くなってきてそろそろ夏服で過ごしたくなってきた季節。と言うと周りの人に少し引かれる。仕方ない、私が超のつく暑がりなだけなんだから。人目を気にして熱中症になるくらいなら堂々と夏服を着ている方が断然いい、と思ったので、朝お母さんに「あんた今から夏服にして、これからもっと暑くなんのにどうすんねん」って引かれたけど無視して着てきた。
 まあ少しは仲間がいるだろうと思っていたが、クラスで半袖は私一人だった。学年でも少なかった気がする。さすがに少し恥ずかしかった。制服の衣替えが自由なこの学校で、夏服に変わるのが毎年トップクラスで早いから、陰で「夏服の女王」とか呼ばれてそうだな。
 と、くだらないことを考えながら歩いているとコンピューター室に着いた。今日、梨沙は塾に行くので部活には来ない。
「誰かいるー?」
 と言いながらドアを勢いよく開けた。
「いますよー」
 声がする方に目を向けると、勇人がこちらに向けて手を振っていた。
 それを見ただけで私の心拍数とテンションが上がった。顔がにやけていないか心配になりながら、なるべく平静を装って口を開く。
「あれ、勇人一人だけ?」
「うん、まだ誰も来てないで」
 ということは、二人っきり!? またテンションも心拍数も上がる。嬉しすぎて、もはや顔がにやついているのなんて抑えられていない気がするけど、まあいいや! ラッキー!!
「……なんか先輩嬉しそうやなぁ、なんかあったん?」
「えっ!?」
 急にそう言われてとても焦って我に返った。
 ごまかせるようなものがあるか、荷物を下しながら視線だけ動かして周りを見渡す。すると、勇人が夏服を着ているのが目に入った……よし、これだ!
「あぁぁ、いや……えーと、その……ほ、ほら! 勇人夏服着てるやん、それでやっと仲間見つけたって思って! クラスでも学年でも私ぐらいしかいいひんかったからさ! あはは……」
 あ、やばい。結構不自然に饒舌になってしまった。怪しまれるでこれ。
 得意のごまかし笑いがひきつり、乾いた笑い声がさらに乾いてきた。
 ……とりあえず、座ろう。当然のように勇人の隣の席に座った。
 私が焦っている間に、勇人が口を開いた。
「あ、そうなん? 俺も周りに全然夏服の人いいひんくてさー、先輩も夏服でなんか安心したわ」
 と、笑いながら言った。
 あー、よかった。勇人が鈍感で助かった。いつもなら、私の気持ちに気づいてよと言いたいところだが、今回は助かった。二人きりだということが判明して挙動不審になっている先輩という感じに思われずに済んだ。たぶん。
 冷や汗を拭いながら、軽く、ふうと息を吐いた。
 と、そんなやりとりをしているとにぎやかな声が近づいてきた。
「あれ、みんな来た?」
「そうっぽいな」
 二人きりでいられる時間もここまでか……。少し、いや、結構残念だ。

「こんにちはー、あれ、川田先輩と満行先輩だけですか?」
 一年生が数人、ドアをガラッと勢いよく開けて入ってきた。
「あー、うん。そうやで。先生も部活に来る時そんなないからなぁ」
「そうなんですか! よっしゃー今日も好き放題ですね!」
「程々にしてなー」
「はーい」
 一年生たちと軽く言葉を交わし、