抱き止めてくれていた陸から体を離し、両手で角の所在を確認したが、やはり頭にはもう角は無かった。


「どうして……一体、何が……」

「兎月、お前が角を折った後に、月が輝いたんだ」

「月……?」


 月の光が、私の身体を包み込んだと陸は教えてくれた。

 その時、頭に一つの想いがひらめく。もしかして……


「……私、角を折る前に、月に祈ったの……陸と同じ、人間に生まれ変わらせて下さいって…………」


 月は、私の願いを叶えてくれたんだろうか……?


「――――何か! 何か確認する方法は無いのか?! 兎月が人間になったって……!」

「確認……」


 私は、陸に言われて少し考えた。

 ……いつも体の中に感じていた、鬼の力が感じられない。人間の血を求める喉の乾きや、目の前の陸を食べたいという欲求も。

 何もかも、無くなっていた。

 試しに、近くに落ちていた石を拾い上げ握りしめた。ただギュッとしただけで、なにも起こらない。

 鬼の力があるならこんな石、簡単に砕けてしまうのに。


「陸、私……本当に人間になれたみたい……」


 ポロポロとまた、涙が溢れた。だって、こんな奇跡ってあるだろうか。