……満月の光が見えた気がした。
目も閉じていたし、今夜は満月じゃないのにおかしいとは思ったけど。でも、全身に満月の光を浴びているような感じが。
同時に、身体中の鬼の細胞が消えてゆく感覚。あんなに熱かった血が、急激に冷えてゆく。
ああ、私は死ぬんだ……
そうだよね、角を折ったんだもの。
痛みは無い。徐々に、満月の光も遠ざかっていく。暗闇へ意識が落ちてゆく。
――――さよなら、陸……
「――――兎月!」
突然、耳元で聞こえた大きな声。それに驚いて思わず目を開けると、目の前には涙でぐしゃぐしゃにした陸の顔。
「り、く……?」
「兎月?! しっかりしろ、兎月!!」
……あれ? 私、まだ死んでいない。
角は確かに折ったはず。それとも、片方だけじゃダメだったのかな。
陸に抱きかかえられ、感じるのは彼の体温の温かさ。そして静かに動く自分の心臓の鼓動。
「陸……私の角は、まだある……?」
「いや……お前が自分で一つ折った後、もう一つは砂になって崩れ落ちたよ……兎月、大丈夫なのか……?」
何が起こっているのか分からない。どうして私、死なないんだろう……