「――――出来ないよ! そんなの! できっこない!! 陸を食べるなんて出来ないよ……!」


 そんなの……そんな残酷な事ってあるだろうか。涙が止まらない。

 陸の気持ちが愛しくて、苦しくて、痛い。


「兎月……」


 陸の瞳からもまた涙が。そしてその向こうには、月が輝いていた。

 ――――人間は、月に願い事をすると聞いたことがある。月に願いを叶える力があるのかは知らない。

 それは、人間が自分自身に決意させる為とか、夢を吐き出しているだけなのかもしれない。

 でも、もし本当に月に願いを叶える力があるのなら……私は願うよ。




 生まれ変わったら今度は、陸と同じ人間にしてください。




 他には何もいらない、たった一つの願い事。


「陸、さよなら……」


 私は一息に自分の角を折った。

 頭を殴られたかのような衝撃と共に、目を開けていられないほどの痛み。


「――――兎月!」


 陸の声。

 でももう、体に力も入らない。膝から崩れ落ちながら私は、意識を手放した。