私の言葉に、やっと顔を上げてくれた。それに精一杯の笑顔を向ける。

 笑って、陸。

 私は貴方の笑顔が気に入っていたんだから。


「陸、もう大丈夫だよ。私、いく事にしたから」

「いく……? 何処へ行くんだ? ……ここじゃない別の所へ行ってしまうのか?」

「違うよ、陸。私がいくのは…………」


 心配そうに私を見つめる陸の向こうに見える街の夜景。そのまた向こうに山があって、その上に月が昇っている。

 私は言葉を止めてそれを見上げた。

 もうすぐ満月だ。でもまだ丸くはなくて、欠けている。


「――――私が逝くのは、あそこだよ」


 私の視線につられ、陸も振り返って夜空を見上げ。そこにこうこうと輝く月に目を止めた。


「…………月……まさか誰かを食べて……!」

「ううん、食べないよ。もう、誰も食べない……」

「じゃあ、どうやって……?」


 不思議そうな顔をした陸に、私はもう一度笑顔を向ける。それで彼はやっと、私が何を考えているのか理解出来たみたいだった。


「――――ダメだ! そんな! そんな事……!」

「ありがとう……陸に会えて良かったよ……」


 私は陸の目の前で、鬼の力を解放した。