――――陸を、食べないって決めたんだ。
彼が悲しむ事はしたくない。だから、勇樹も食べない。
他の誰も彼も――――人間を食べないって決めたんだ。
食べないって決めたから、もう月へは帰れない。他の小動物や何かを食べて生き永らえても意味はなくなってしまった。
「だから、お前も食べないよ。安心して……」
そう言いながら猫をもう一撫ですると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
……食べないって決めた私は、もうすぐ死ぬ。
鬼の急所は喉元と角。喉をかっ切るか角を折れば、満月を待たずに死ぬことは出来るけど。
せめて満月までは、陸のいる地上に存在したかった。陸と同じ大地に立ち同じ空気を感じていたかった。
ああ……まただ……
陸の事を考えると苦しくなる。
私は猫から手を離すと、また仰向けに寝転んで目を閉じた。
お腹の奥の方がジーンと痺れて、心臓がドキドキしてポカポカ温かい。泣きたくなるような、笑いたいような、不思議な気持ち。
これがお母さんの言っていた『情』ってやつなのかな。だとしたら、何て厄介なものなんだろう。
ごめん、お母さん。私はもう、陸をただの食料だとは思えないや。