相変わらず呼び鈴の見当たらない大きな両開きの玄関。それに近付けば、いつもだったら兎月が顔を出す。今日はそれも無い。

 やっぱりまだ、寝ているのかもしれない。

 ドアノブを引くと鍵は掛かっていなく、すんなりと開いた。

 何だかおかしい……

 初めのうちは兎月は、玄関の鍵なんて掛けなかった。だけど不用心だと俺が言い続けたから、最近ではちゃんと鍵を掛けるようになっていたはずなのに。

 そっと中へ入る。中は人気(ひとけ)が感じられず静まり返っていた。


「――――兎月!」


 声を掛けたが、それは静かな館内に響いただけで返事は無い。


「兎月! 俺だ! 陸だ!」


 もう一度呼び掛けたが、やはり返事も動きも無かった。

 勝手に他所の家を悪いとは思ったが、一階の部屋を幾つか覗いてみた。いつも案内される部屋以外は使っていないようで、まだ家具に埃避けの布が掛けてある。

 何処にも彼女の姿は無かった。

 そういえば兎月は、いつも二階で寝ていると言っていた。

 ギシギシと軋む階段を上がる。昇りきった所の窓から遠くの山が見えた。夕日はその山の向こうへ落ちかけ、赤かった光が夜の闇に変わろうとしていた。