『俺は柔道部の猿田に誘われたんだけど。お前も行くだろ?』

『洋館の鬼退治か……まあ、鬼なんているわけないけど肝試しっぽい感じ?』

『そうそう、つまりは何でもいいんだよ。みんなで騒げて面白ければ』

『だな、ちょっと面白そうだし俺も行こうかな……』


 ははは、とふざけた笑い声が聞こえたのと同時に、俺は教室を飛び出した。声の主の男子生徒二人の間を強引に通り抜け、洋館へ向かって走る。

 勇樹は本気で鬼退治をしようとしているけど、それに参加する他の人たちは遊びだと思っている。

 そんな奴らに、兎月をどうにかさせてたまるか……!

 自分は彼女を好きになりかけている、と思っていた。だけど本当は――――




 とっくに好きになっていたんだ。








 夕方の山道を、洋館に向かって走る。舗装していない道だから足場は悪く、時々転びそうになるのを堪えながら。

 今日中に兎月を何処かへ逃がさないと!

 息を切らせながら到着した洋館は、いつもと同じ静かさだった。夕日に照らされた白い壁に枯れかけた蔦が這っていて、窓はくすんでいて中が見えない。

 それでも時折、窓の中でゆらりと人影が動いているのが見える事がある。兎月だ。

 だけど今日はそれは見えなかった。まだ夕方だから、寝ているのかもしれない。