否定は出来なかった。

 だって、そうしなければ兎月は月へ帰れないまま、美兎のように死んでしまうんだから。


「……じ、だ……!」


 うつ向きながら勇樹は、今までにないくらい低い声を出した。よく聞こえなくて聞き返したが、答えてはもらえなかった。ブツブツと呟きながら何かを繰り返している。


「勇樹……?」

「……陸、鬼はまだ、洋館にいるんだよな?」

「え? ああ、そのはずだけど……」


 勇樹が兎月の事を名前ではなく『鬼』と言った事に何か違和感を感じた。嫌な予感で鼓動が早る。

 何だ……? 勇樹は何を考えている?


「じゃあ、人を集めなきゃな……柔道部の猿田(さるた)とか、力ありそうでいいかな……それと後は……」

「お、おい、勇樹! お前、何を……」


 俺の問いかけに、勇樹はゆっくりと顔を上げた。


「何を、って……決まってるじゃん」

「え……?」




「――――鬼退治だよ」