自分以外、誰もいないはずなのに……

 気のせいではなかった。聞こえてくるのは、ギシギシと床板が軋む音。木造の床は古くなっていてよく軋む。それと一緒に聞こえてくる、コソコソとした話し声。

 人間の気配を感じ、私はこっそりと音の方向へ向かった。




「……ヤバいヤバいヤバい……! マジでヤバいって! 助けて、(りく)!」

「お前が行くって言ったんだろ、勇樹(ゆうき)

「そうだけど~……怖いもんは怖いんだよ! ホントに何か出そうじゃね?」

「まあ、だから『お化け屋敷』って言われてるんだろうけど……」


 玄関からの廊下を進んでくる人間二人が暗闇の中、月明かりにぼんやり見えた。曲がり角の壁に隠れて様子をうかがっていると、そんな会話が聞こえてくる。

 人間……本物は初めて見た。あれが『若い男』なのかな。でも、何をしに来たんだろう……?

 二人は曲がり角の手前で足を止めた。


「でも……勝手に入っちゃって良かったのか? ここ、所有者がいるハズだろ?」

「もー! 陸は真面目か! もう何人もクラスの奴が来てるし! 近所でもお化け屋敷って噂されてて、鍵もかかってなくてこんなに荒れてるんだよ!? 少し入って探検した所で、今さら誰かに怒られると思う!?」

「それはまあ……そうだけど……」