「いろいろごめんね、陸……でも、もう大丈夫だから」

「大丈夫って?」

「私、ここからいなくなるから。もう、陸にも勇樹にも、会わないって決めたから……」


 もう私には、陸を食べる事は出来ない。どうしてかは自分でも分からないけど、陸は食べたくない。

 これが、お母さんが言っていた『情』ってやつなのかな。


「……俺を食べなくても、何処か他の場所で他の誰かを食べるのか?」

「分からないけど、たぶん……じゃないと私、月へ帰れない……」

「そう、だよな……」


 それきり、陸は黙ってしまった。

 また何処かで危険を知らせるように鳥が鳴いた。もしかしたら、私の鬼の匂いに気がついているのかもしれない。野生の動物は人間なんかよりずっと敏感だから。


「――――少し、待ってくれないか?」

「陸……?」

「今は俺、頭が混乱してて……ちゃんと理解して整理が出来るまで、少し待って欲しいんだ……」

「そんなの必要ない。理解なんてしなくていいよ。陸はただ、忘れてくれればいいだけだから……」

「それじゃあダメなんだよ!」


 陸は突然立ち上がり、大きな声でそう言った。

 やっぱり、怒ってるんだ……