動物園で美兎が死んだ後、私はまた人間に擬態したけど、陸や勇樹の所へは戻らなかった。

 いや、戻れなかったんだ。

 鬼化した時のあの、陸の怯えた目……化け物を見るような瞳が忘れられなかった。そして、怖かった。

 怖い……? 何が?

 どうしてそう思ったのか分からない。だけど、私は怖かったんだ。




 ……陸に嫌われるのが。




 朝がきて昼がきて夜になる。陸は来ない。そうしてまた、朝がきて昼がきて夜になっても、やはり陸は来なかった。

 もう陸はこの洋館には来ないのだろう。私が人間ではないと知り、勇樹も酷い目に合わせてしまった。もしかしたら、私の事を他の誰かに話してしまったかもしれない。

 そうしたらもう、ここにはいられない……

 昔々から人間は、鬼という存在には恐怖を感じるらしい。そしてそれを排除しようとする。だから地上に住む他の種族の鬼たちは、息を潜め姿を隠して暮らしているのだ。

 余計な混乱を避ける為、私もそうしなければならないだろう。

 いくら陸が鬼の存在を主張しても、その鬼の私がいなければ誰もそれを信じはしない。いつかきっと、夢物語だったと忘れてくれる。

 私を、忘れてくれる……



 どうしてだろう、胸が痛い…………