「勇樹を、食べる事も……本当は、出来なかったの……」

「美兎……! もう喋らないで! いま私、何か食べられる動物を捕って来るから!」


 少しでも美兎の力を回復させようと思ってそう言い立ち上がろうとしたが、腕を掴まれ留められた。そして彼女はゆっくりと首を振る。


「だめ……行かないで……もう、いいの……」

「美兎……?」

「あたし、もう、ダメなの……だから、一人にしないで……もう、一人はいや……」


 美兎の言葉に息が止まりそうになる。嘘なんてついてない……彼女は死ぬんだ。同じ鬼だからだろうか。私にも美兎の命の灯火が消えようとしているのが感じられた。

 腕を掴む美兎の手から、徐々に力が抜けてゆく。私は逆の手でその手を握ったが、彼女は握り返してはこなかった。


「美兎! ダメだよそんなの! 美兎!!」

「……あんたは、ちゃんと、頑張ってね……食べて、月へ帰るのよ…………」

「美兎……!」




「……月へ、帰りたい…………」




 それが美兎の最後の言葉だった。

 美兎が目を閉じるのと同時に、彼女の身体が砂になって崩れてゆく。鬼は死ぬと砂になる。粒子の細かいサラサラとした白い砂に。