美兎はなるべく人目に触れないように、暗がりを進んでいた。初めは歩いた後に点々と血が垂れていたが、暫く進むとそれも無くなった。

 どうやら私が噛みついた喉元の傷は閉じたようだ。

 鬼の姿でいると、治癒能力も格段に上がる。多少の傷なら少しすれば治ってしまう程に。だから、完治とまではいかないだろうが、私が付けた傷は無事閉じたはずだ。


 美兎は鳥エリアへ入ってすぐ、池の端で止まった。そこは係員が裏へ入る出入口の扉の前。照明も薄暗く、少し木が生い茂っているから人目にはつかない。

 美兎は疲れたようにがくりと膝を付くと、そのまま地面に横たわってしまった。


「――――美兎!」


 慌てて駆け寄ると、彼女は私の声に呼応するように体を仰向けに返した。


「大丈夫?! 私のせいで……ごめんなさい……!」

「……違う……あんたのせいじゃないから…………」


 喉元の傷は消え、正気に戻っているのに、荒い呼吸を繰り返す美兎。何か胸騒ぎがして、私は彼女の横たわる側へ膝を付いた。


「……あたし、本当は……もう、力が残ってないの…………鬼に、戻るだけで、精一杯だった…………」


 美兎の額には玉のような汗が吹き出していた。時折、苦しそうに顔をしかめる。