「――――うわあああああ!」
「止めろ! 放せ!!」
勇樹の叫び声に見ると、美兎がへたりこんでいる彼の肩を掴んでいた。陸が必死に彼女のその手を引き離そうとしているが、美兎はびくともしない。ギリギリと掴んでいる手に力を入れているのだろう、勇樹が泣き声交じりの悲鳴をまた上げた。
もう迷っている暇は無い。いくら人目につかない場所だといっても、この騒ぎで時期に他の人間もやって来るだろう。
私は大きく息を吐くと目を閉じ、身体の中に眠らせていた鬼の力を解放し始めた。
……体が熱くなる。
まるで体内の血が燃えているかのようだ。目を閉じた暗闇で、細胞が目覚めてゆくのが分かった。総毛立つ、とはこの事か。その文字の通り体中の毛が逆立っているように感じる。
私はゆっくりと目を開けた。人間に擬態していた時とは、視界までも変わってしまった気がする。夜の闇がやけに鮮明だ。
自分の後ろにある街灯で映し出された影に、鬼の角が出来ていた。
それで自分が確かに鬼になった事を確認し、私は争っている三人の傍へ。美兎の肩に手を掛けこちらへ振り向かせ、すかさずその喉元へ食らいついた。
「――――ぐあああぁ……!」
泣き声とも叫び声ともつかない声を上げる美兎。私は自分の口元に血が溢れたのを感じると、それを離した。