――――この辺り……鬼の匂いを強く感じる……!
それも、建物の中じゃなくてその回りから。
私は鬼の匂いを辿り、建物の裏手へ回る。人目の届かない裏側は、係員の出入口になっているようだ。
そこにやっと二人の姿を見つけた。
勇樹は、怯えたように美兎を見つめながら地面にへたり込み、美兎は……
後姿でも分かる。彼女の長く茶髪にしていた髪の毛が、真っ白に変わっている。荒い音を繰り返す呼吸。
「……何だよ、これ……彼女は一体……」
私に追い付いた陸が、その異様な光景を見てポツリと呟いた。美兎の発する鬼の空気に呑まれていた私は、それでハッと我に返る。
「――――美兎! ダメ! 止めて!!」
渾身の力で叫ぶと、勇樹を見据えていた彼女はゆっくりとこちらへ振り返った。
その顔は……血走った瞳、荒い息を繰り返す口元に見える牙。角こそ出ていないが、美兎は力を解放し、鬼に戻ろうとしていた。
「お願い、美兎! 止めて……!」
もう一度叫んだが、彼女には届かなかった。
深く吐き出された息、真っ赤に染まって行く瞳。そして――――現れた、鬼の角……
美兎は鬼の力をひと息に解放してしまったのだろう。そのせいで酷い興奮状態に落ちてしまった。
もう、誰の声も届かない……