それを回避する為には、人を食らう事。若い男の血肉には、子を宿し鬼の力を回復させられる、それだけの栄養があるのだとお母さんは言った。

 地上へ降りたまま、帰らない者がいるとは聞いた事がある。でもそれは、事故にあったりとか何か理由があるんだと思っていた。帰らないけど、そのまま地上で人の振りをしてくらしているんだと。

 実際、子供の頃はそう聞かされていた。眠る前のおとぎ話として。

 だけど本当にそれが、おとぎ話だったなんて……

 知らない間に、手に汗をかいていた。それをぐっと握りしめる。体中が強張っているのが分かった。

 だって……知らなかったんだもの。まさかこれが、死出(しで)の旅になるかもしれないなんて…………

 そんな私の様子が分かったのか、お母さんはゆっくりと近づくと、柔らかく抱きしめてくれた。


『――――大丈夫……兎月、貴方はちゃんと出来るわ、お母さんの娘だもの。いい? 人間には情けを掛けてはダメ。ただの食料だと思いなさい。そうすれば、簡単よ』


 ただの食料……


 私がお母さんの腕の中で頷くと、もう一度ギュッと抱きしめてくれた。