夜遅く、洋館にまた美兎がやって来た。

 美兎は昨夜とは違い、獲物を狩る獣のように瞳をギラつかせ頬を赤く上気させている。血の匂いはしなかった。


「――――聞いて! 兎月!」

「どうしたの? そんなに興奮して……」

「あたし、とうとう食べるわよ!!」


 美兎の言葉に心臓がドキリとする。彼女が何を言っているのかすぐに分かったからだ。


 ――――あたし、とうとう『若い男』を食べるわよ……


「一人、目を付けてた男がいるんだけど、今度二人で出掛ける事になってね! コレって、チャンスじゃない?!」


 美兎は酷く興奮していた。それは無理もない。彼女はずっとこのチャンスを待ち続けていたんだから。


「そう、頑張ってね」

「もちろん! でも、あんたも他人事じゃないわよ?」

「え……?」

「あんたもさっさとターゲットを決めて食べないと! 次の満月なんてすぐ来るわよ!」


 美兎は興奮冷めやらぬといった感じで、私をけしかける。だけど当然だろう、私も他人事ではないのだから。


「食べられなくて帰れないと、キツいわよ。想像より、ずっとね……」


 若い男を食べられず、帰る事が出来なくなった彼女は、一体どんな気持ちで過ごしてきたのだろう。

 徐々に無くなる体力と鬼の力を感じながら小動物を食み、訪れるチャンスを待ち……