その男の血を吸い肉を食べる事で、体内に男性遺伝子を取り込み子を宿すのだ。でも、そうして生まれてくるのはやはり、女だけ。

 どうして女しか生まれないのかは分からない。他の種族は男女おり、繁殖出来ているのに。

 だから、私たちは代々人の男を食らい繁殖し、一族を繋いできた。

 ……私も、知識としては知っていた。それに、兎とは言われているが自分は鬼だ。本当のウサギみたいに草食ではないし、人間を食べる事にそれ程抵抗は無い。

 でもやはり、これから初めて人間の男を食べ、子を宿さなくてはいけないという事実には戸惑ってしまう。


『――――今度の満月に降りなさい。期限は、降りてから次の満月まで。それまでに人間を食べなければ、もうここには戻れなくなるから気を付けて』

『えっ……? 帰れなくなる?』


 私が驚いて聞くと、お母さんは悲しそうな顔で頷いた。

 月と地上では、環境が違うのだ。普段、月で生活している私たちは、地上ではとても体力と精神力が必要になる。

 鬼の力、という特別な能力も消耗してしまう……

 地上へ降りるには、鬼の力を使って道を開かなければならない。帰る時もしかり。だから、力が消耗するという事は、鬼の道が開けなくなるという事だ。

 鬼の力が尽きると、私たちは消滅する。


『私たちが地上で生きていられるのは、せいぜい一ヵ月……他の動物を食べれば少しは力が戻るけど、それも一時的なもの。いずれ尽きるわ……』