満月だった月が、少しずつ欠け始めている。

 このところ、深夜になると洋館に誰かの気配を感じる。もちろんそれは、陸ではない。

 もっと静かで、そして微かに漂う……血の匂い…………

 何度か、その気配を辿った事もあったが、正体は掴めなかった。そして今夜も――――


 そろそろ夜明けが近い時間。眠ろうかと二階の部屋へ上がると、階下からカタンと物音がした。

 またか、と思いながら耳を澄ますともう一度、カタン。私は音をたてないようにソロリと、気配の方へ向かった。

 一階の奥の部屋。裏庭に面したそこが一番気配が強い。近付くと扉は開け放たれていた。壁に隠れながら覗いてみると、月明かりで逆光になった女性の後ろ姿。

 その影を見て、私は息を呑んだ。だって……


 ――――頭の上に、角が二本。


 それは確かに、自分と同じ鬼の姿。

 影の方も私の気配に気がついたのだろう。ゆっくりとこちらへ振り返り、言った。


「――――あんた、誰? 人間? それとも、あたしと同じ……鬼……?」


 ああ、やっぱりそうなんだ!

 ずっと感じていた、何処か懐かしいような気配。それは自分と同じ、鬼だったから。