『――――えっ、お母さん、私が地上へ降りるの?』
『ええ、そうよ。兎月は、今度の満月で貴方はもう十八歳でしょう?』
『ああ、そっか……』
十八歳……は、私たちにとって特別な年齢だった。
私たち――――鬼にとっては。
外見は人間とほとんど変わらない。だけど、頭の上に角が二本。そんな姿の私たちを人間は『鬼』と呼ぶ。山や川、海に森、空を縄張りにしている変異種……色々な所にそれぞれの鬼の種族が様々な形で隠れ住んでいる。
一見ではそれとは分からない形態で、静かにひっそりと暮らしてる。
私たちは、月に住む鬼の一族だった。
昔々、月から地上へ降りた私たちの姿を見た人間は、頭の二本の角を長い耳だと見間違えた。それで、月には兎が住んでいる、と言われるようになったそうだ。
だから他の鬼たちから、私たち一族は『月の兎の鬼』
――――兎月鬼と呼ばれている。
『いい? 兎月、貴方も分かってると思うけど……地上へ降りたら、人間の若い男を見つけなさい』
『うん……』
『――――そして、食べなさい』
お母さんの言葉に、私はゴクリと息を呑んだ。
兎月鬼の一族は、どうしてか昔から男は生まれない。皆、女ばかりだ。
だから、繁殖が出来る十八歳になると、地上へ降りて人間の若い男を食らう。『若い男』というのは、十歳以上二十歳以下の男の事。