「1人の人間を好きになれないなんて、可哀想にね」


軽蔑の眼差しでそう言った七瀬くんは、ハッと鼻で笑う。

何も言い返せなくなった岡田さんは、目を泳がせながら「わ、わかったわよ…!」と、一言吐き捨て、駆け足でその場を去って行った。


「「……」」


岡田さんがいなくなった後、私たちの間には気まずい空気が流れる。


「…あの、鞄…ありがとうございます」


彼が手に持っている鞄をそっと受け取る。

七瀬くん、一体どこから聞いてたんだろう。

音声の会話からして、割と最初の方な気が……。


「遠坂さん」

「……」

「……汐莉ちゃん」

「…っ!?そんっ…、なんっ、はいっ!!」


唐突な下の名前呼びに思わず声が裏返ってしまう。


「ファーストキス、奪ったの怒ってる?」

「ゔえっ!?ななな、なんでファーストキスなの知って…!?」

「…冗談で聞いたつもりなんだけど、本当にファーストキスだったんだね」

「〜〜っ!!!」


…やられた。

自爆した挙げ句、図星をつかれるなんて。


「…まあ、俺もファーストキスだし、お互いの初めては失ってしまったということで」

「な、なんか言い方が嫌です!!」


そう言うとじーっと見つめられ、「な、何ですか?」と恐る恐る尋ねる。