「遠坂さん、ちょっと話そうよ」


クイッと顎で促す七瀬くんにブンブンと首がとれそうなくらい横に振りながら、


「私は話すことありません!!さようなら!!」


七瀬くんと絢ちゃんの間を通り抜け、全速力で廊下を走る。


昇降口に到着し、追ってこないことを確認した後、ため息をついた。

…だめだ、七瀬くんが視界に入ると唇ばかり見てしまう。

好きな人とキスするのは憧れでもあり、嬉しかった。

嬉しいはず…なのに、何かが引っかかるような感覚がして。

考えなくてもわかる。嬉しいのに嬉しくないのは、私と七瀬くんが両想いではないから。


七瀬くんだって男の子。

キスの一つや二つしたい年頃だろう。


彼が発した『したくなった』という感情が湧き起こり、衝動的にキスをしてしまったのかもしれない。


…七瀬くんのことだし、ありえそう。

1人で勝手に解決していると、ぽんっと後ろから誰かに肩を叩かれる。


「遠坂さん」


ぴくっと体が反応し、恐る恐る振り返ると───…。


「…ちょっといい?」

「えっ…」


私に声をかけてきたのはいつぞやの岡田さん。


「えっと、岡田さん。ど、どうしたの?」


学年の中で美人と有名なあの岡田さんが私に話しかけている。

岡田さんは私の問いに答えず、真顔で「ツラ貸しな」と一言発して歩き出した。