「七瀬く───」

「わからない」


名前を呼ぼうとした時、彼の声によって遮られる。


「……わからないけど、あと少しで何かわかる気がするんだよね」


七瀬くんは自分の胸に手を当て、ぎゅっと拳を握りしめた。


「最近、胸の辺り(ここらへん)がモヤモヤムカムカして、苦しくて…自分でも訳わかんないくらいイライラする。今までこんなことなかったのに……」


苦しそうに顔を歪ませた七瀬くんがこちらを見る。


「遠坂さんと関わるようになってからだよ。心臓を誰かにぎゅっと握られるような感覚になんの」


徐々に心臓がドクドクとうるさく鳴り響く。



「ねえ、俺のこの気持ちって一体なんなの?」



今まで見たことのない七瀬くんの表情に言葉が詰まってしまう。

更には体温が一気に上昇していき、全身と言っていい程、顔も何もかも真っ赤になっているだろう。


七瀬くんの今の感情は勿論、知っている。

…だけど、それは(・・・)私が教えるべきではない。


私は一旦深呼吸をし、高鳴っている心臓を落ち着かせる。


「…タ、タイムです!!!」

「…は?」

「今から七瀬くんに考える時間を与えます!!
その間に私はお手洗いに行ってきますね!!それでは、失礼致します!!」