「…それ、バナナ?」

「う、うん!今日の授業のテーマがバナナマフィンを作ることでね…!」


七瀬くんは受け取るのだろうか…と、唾を飲み込み、教室の入り口から顔を覗かせる。


「ごめん、俺、バナナ嫌いなんだよね」


彼の一言で、私と女の子は石像のように体がピシッと固まってしまう。

数秒後、女の子は我に返り、申し訳なさそうに笑いながら、

「そっか。なんかごめんね!」

と言って、駆け足で教室を出て行った。


小さくなっていく女の子の後ろ姿を見送った後、チラッと七瀬くんを見る。


…七瀬くん、バナナ嫌いだったんだ。


手に持っているマフィンの方へ視線を移し、カサッとラッピング袋の潰れた音が鳴る。


私も七瀬くんにあげるつもりだったけど、バナナが嫌いなら渡すの申し訳ないよね…。

…よし、今日はやめて違うお菓子を作って別の日にあげよう!


心の中でため息をついて、自分の教室に戻るために回れ右をした時───…。


「…へぶっ!?」


振り返った瞬間、誰かとぶつかってしまう。


「…うわっ!?ごめんっ……って、遠坂さんじゃん!こんな所で何してんの〜?」


鼻をさすりながら見上げるとニコニコ笑顔を浮かべている中条くんの姿が。