両想いになりたいだなんて、そんなおこがましいことは言わない。

私はただ、七瀬くんが心から好きになった人と幸せになってほしいだけだから。


しばらくぽかんとしながら見ていた七瀬くんはフッと目を細めて微笑む。



「遠坂さんは優しいね」



柔らかく笑う彼の表情にドクンッ、と心臓が大きく音を立てた。

徐々に鼓動が速くなり、再度体温が上昇する。


「っ、優しくなんかない…です……」


───七瀬くんの近くにいたいから。


それだけだよ。

私はズルい女なんだよ。


「優しいよ。とっても優しい」


ほら、そうやって優しい言葉をくれるからどんどん好きになっちゃう。


「遠坂さん見て思い出したんだけどさ、俺ら1年生の終業式の日に1回だけ話したことあったよね」


七瀬くんにとっては些細な出来事かもしれないけど、私たちが去年出会っていたことを覚えてくれていたことが嬉しくて───。


「……思わせぶりな態度はいつか痛い目にあいますよ」

「え、何急に」


目頭がじんわりと熱くなって、『好きです』と心の中で呟いた。