「彼女と言っても、何度もしつこく『付き合って』って言われて仕方なく付き合っただけなんだけど、結局好きになれなかったし、彼女も彼女で"彼氏がいる"ってだけで注目されたくて俺を見ようともしなかった…」
「中学生の頃から、俺にとって、"恋"はくだらないものだって、めんどくさいものだって、そう思ってた」
「傷つけて、泣かせて、苦しめて……。誰かを好きになったり、幸せそうに好きな人の話をしたり……。それの何が楽しいのか、俺には全くわからなかった」
七瀬くんはゆっくりと、私から体を離して、悲しそうな瞳で微笑んだ。
「けど、実際に恋をすると、思ってた以上に胸が痛いね。息が詰まったような…海に溺れてしまったかのような感覚になる」
トク、トク…と、心臓の鼓動が高鳴り出す。
「…ねえ、遠坂さん」
七瀬くんは目を細めて、掠れた声で私を呼んだ。
「───俺、遠坂さんじゃないとだめみたい。遠坂さん以外の女子に"触れたい"って思わないもん」
つんっと鼻先が痛くなってきて、堪えていた涙が溢れそうになる。
「こんな奴でもよかったら…」
「俺と恋、しませんか」
七瀬くんはそっと私の両手を握ってこてんと首を傾げた。