『大丈夫?』
同じ目線になってそう聞くと真っ青な顔で俺を見上げる女の子は話す気力もなく、そのままこちらに体を預け、眠りについた。
背中まで伸びた艶のある髪が腕に当たってくすぐったい。
仕方なく、保健室へ女の子をベッドまで運ぶと養護教諭の先生は『女の子によくある貧血ね』と眉を下げて小さく笑った。
俺はよくわからないまま、『はあ…』と答え、白い顔で寝息を立てている女子を見つめる。
『……』
おんぶして運んだけど、体育終わった後だったから汗臭かったよな……。
まあ、どうせ会うことないし、そもそも覚えてないか。
1人で勝手に解決し、保健室を後にしようとした時───。
『……絢ちゃん?』
カッターシャツの袖をぎゅっと握られた。
『絢ちゃん、ごめん。私、絢ちゃんの誕生日のためにね、1ヶ月前から計画立ててね、絢ちゃんを喜ばせたくてね。あと、あとね、絢ちゃんが彼氏さんと復縁したって聞いて嬉じぐで…ゔっ…ゔぅ〜〜〜っ……』
話している途中で女の子は泣き出した。
"あやちゃん"って誰…と声に出しそうになったが、なんとか飲み込み、近くに置いてある丸椅子に腰掛ける。
『大丈夫だよ。その"あやちゃん"って人もたぶん、怒ってないよ』
説得力のない言葉をかけていると、
『あら、彼女目覚めたの〜?』
養護教諭の先生がカーテンから顔を覗かせた。
『七瀬くん、運んでくれてありがとね。HRまだでしょ?もう教室戻っていいわよ』
『…あ、はい』
『まあ、彼女のメンタルケアをしてあげるのも彼氏の役目だものね♡』
『あ、この人彼女じゃないです。初対面です』
そして1年後、俺の前で倒れ、保健室のベッドの上で大泣きした女の子が遠坂さんであると知ることとなる───。