◻︎


『ねえ、七瀬くん!待ってよ、ごめんってば!
そんな怒んなくてもいいじゃん。あれはただのノリなんだからさ!』

『触んないで、気持ち悪い』


腕を振り払うと彼女はポロポロと大粒の涙を流す。


『ごめんって…言ってるじゃん。
ゔぅっ…あれは、会話を盛り上げるために───』

『何で泣くの?泣けば許されるとでも思ってんの?』


そういえば、俺にしつこく告白していた時も泣いてたっけ。

どうでもよすぎて忘れていたけど、今思い返せばろくでもない女だったんだな。


『便利な涙だね』


俺と付き合いたかったのだって、ただ容姿でしか選んでいなくて。

自分に彼氏がいることに注目されたくて、利用されていただけのこと。

それに気づかなかった俺も十分馬鹿だ。



『ほんっと、意味わかんない』



"恋"ってめんどくさい。


それからというもの、彼女と別れてから、俺は告白される度に冷たく(あし)らうように接した。

こっぴどく振った方が相手だって"俺はこんな奴"なのだとがっかりして、すぐに切り替えられるはず。