お爺様が私を案内したのは、庭園の端。そこには枯れかかった桜が植えてありました。まだ若い木のようで背も小さく、いまにも枯れて枝が落ちてしまいそうです。

「桜、ですか……珍しいですね。」
「東の国からの使者が、苗木を持ってきてくれたのじゃ。可愛らしい花が咲くので、前公爵様が毎年楽しみにされておった。じゃが、ここ数年このように元気がないのじゃ…。」

 よく見ると、枝の一本が切られた痕がありました。

「枝が……。桜は枝を切ってはいけないと聞いたことがあります。」
「庭師の弟子が誤って切ったのじゃ。」

 お爺様はとても傷ついた顔をしています。庭師として、これほど広大な庭をお手入れできることは誉でしょう。
 だけど、お弟子さんの失敗で、前公爵様の毎年の楽しみを奪ってしまった。前公爵様はそれくらいで庭師をクビにすることもないお方だからこそ、余計にご自身でその失敗が悔やまれるのでしょう。出会ったばかりの小娘に意見を求めるくらいに。

 お爺様の前公爵様への思い、そして庭師としての誇りを感じ、胸が熱くなりました。よし、私にできることがあればやってみましょう!