翌日、私はアンナとともに、伯爵家の皆さんに見送られながら公爵邸へと出発しました。もちろん、ウィルから贈られたドレスと、真珠のアクセサリーを身につけています。

(……ウィルは、喜んでくれるかしら……)

 胸の傷痕が見たい、その要望を叶えた先の未来に、私達はどうなるのでしょう。ウィルに会いたいけれど、不安になってきました。
 公爵邸への道中、私はずっと緊張していたのでした。

 公爵邸に到着すると、前公爵様とカタリナ様、使用人の皆様が迎えてくださいました。
 ウィルはいません。きっと迎えてくださるものだと思っていたので、なんだか拍子抜けしてしまいます。

「ローズ・アークライトと申します。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」

 公爵家の皆様は優しい笑顔で迎えてくださいました。でも、ウィルに贈ってもらったドレスに真珠のイヤリングとネックレスをつけてきたのに、本人がいないのでは少し残念です。

「ここが君の自宅になるのだから、リラックスするんだぞ。」
「私のこともおかあさまって呼んでね。ローズちゃん。」
「はい、お義父様、お義母様。」

 ウィルがいなくても優しいお義父様とお義母様の為、新米庭師(兼ウィルの婚約者)として心機一転、お勤め頑張ります!!

 今日は移動で疲れただろうということで、淑女教育は明日からになりました。まずは、私にご用意してくださった部屋へと案内してもらいます。案内してくれたのは、公爵家メイドのユリア。私と変わらないくらいのお年頃に見えます。ガーベラが似合いそうな可愛らしい方です。

「奥様のお部屋はこちらでございます。」
「わっ」

 奥様という言葉に驚いてしまいました!き、気が早いですよ!しかし淑女たるもの心のざわめきを表に出してはいけません。内心びっくりしながらも、「ありがとうございます」となんとかにっこり答えました。

 私のお部屋は、一週間であしらえたとは思えない程、可愛らしいお部屋でした。
 壁には色とりどりの花の模様が描かれ、天蓋付きベッドには私が大好きなお花のレースが使用されています。またお茶ができそうな小さなテーブルセットにも、よくみるとお花の彫刻が施されていて、私の趣味にピッタリです。

「まぁ素敵なお部屋。ありがとうございます。」

 そうユリアに言うと、「旦那様があれこれ指示されて一生懸命ご用意されてましたから、そういっていただけましたら喜ばれるかと思います。」とにこやかに教えてくださいました。

(ウィルが……私のために……?)

 大人っぽいこのドレスを見たときは、ウィルの好みの女性は私と異なるのだと落ち込みましたが、こうして私のことを考えて色々準備してくれたことを知ると、なんだか胸の奥が熱くなります。
 この婚約指輪のように、「私」のために選んでくださったことが、大層うれしく感じました。

「ちなみに、奥の扉を開けますと、旦那様のお部屋でございます。」

 にこやかにユリアが爆弾発言をしたので、私は驚きを隠せず、花をポーンと咲かせてしまったのでした。