「では、婚約式を始める。」

 婚約式を仕切るのは新郎か新婦の父親が行うのが通例です。貴族同士の婚約の場合、爵位が上の家長が行うため、今回は前公爵様が取り仕切ってくださることとなりました。ちなみに神官様からは結婚式の際に祝福をしていただきます。

「ウィル、石と台を。」

 指輪の台座は午前にお店を訪れてから、そのままお互いの指にはまっています。
 ウィルは、彼の瞳と同じ色の魔法石を手に取り、神殿に掲げました。

「誓いの言葉を述べよ。」
「ウィリアム・エルフィストンは、ローズ・アークライトを将来の伴侶とし、守り支え、婚約を結ぶことを宣言する。」

 ウィルが高々に宣言しました。なんということでしょう。フルネームで呼ばれてしまいました。フルネームを名乗り、そして呼ぶことは、この国では大変重要な時にしか行いません。
 神に誓う時、爵位を襲名する時、王の前で忠誠を誓う時くらいです。妖精との契約でも使いません!

 結婚式でもないのに、フルネームを使用するなんて。後戻りできませんよ?いいんですか!?

 そう内心で慌てながらも、震える手で私も自分の瞳の色の魔法石を手に取りました。
 彼がフルネームを名乗るのならば、私も合わせなければなりません。

「 ローズ・アークライトは、ウィリアム・エルフィストンを将来の伴侶とし、守り支え、婚約を結ぶことを宣言いたします。」

 緊張しながらも、そう言い切ると、横からふぅと息を吐く音が。ため息ですか?!
 そ、そんな、嫌なら言ってくださいよ!フルネームなんか使うからですよ!どうしよう泣きそうです。横を盗み見ると、ウィルの口元が少し弧を描いていました。ため息を吐きつつ笑顔?なぜ?!
 もう~、全く分かりません!