「…——私と付き合ってください」

 手を伸ばして、握手の手を作って、日名瀬さんが少し嬉しそうに言う。

 「…ぶっ、それ、僕が先に言ったのに」と僕が言うのと、「すいませーん! 風で飛んじゃって!」という、誰かの声は同時だった。

「………!」

 日名瀬さんの顔が、みるみる赤くなっていく。さっきまでだって赤かったけど、今はもっとだ。——周りの目、気にしてなかった。
 多分、僕の顔もどんどん赤くなっていると思う。周りの人は、僕らを見て、「きゃっ」なんて悲鳴(?)を上げたり、友達らしき人の肩を叩いて笑ってたりで。

 「すいません…」と言って日名瀬さんから雨ガッパを受け取る男の人。その人は、そっと僕の耳元で「じゃ、頑張れよ」なんて言ってきた。大きなお世話だ。多分今の僕、余計赤くなっちゃったじゃないか。

「うん…。付き合って、ください」

「…はい」

 日名瀬さんも僕も真っ赤。

「…帰ろ。送るよ、やっぱ」

「お願い、します……」

 行きはただのクラスメイト。
 帰りは、彼氏と彼女で。

 僕らの一日デートは、終了した。

        END