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近藤くんが「ちょっと待ってて。トイレ行ってくる」と言う。
「…あ、実は私も……」
小さく手を上げて言う。
トイレに行って、帰ってくると、近藤くんはいなかった。
時計を確認する。
…そろそろ時間か。
「ごめん! 待った?」
「ええ、待ち合わせの時に言うセリフだよそれ…!」
「そーだね。ちょっと遅くなっちゃったかなって思って」
「ううん、ちょっとしか待ってない! …あ、それと……」
まだ寂しいけど。
「私、そろそろ帰らないと。ここから家まで遠いから、早くしないと約束の時間過ぎちゃうから…」
「約束?」
「お母さんと7時までに帰るって約束なの。いつもは5時までなんだけど…」
…好きな人とのデートって言ったら、『特別ね』って、伸ばしてくれた。
「…そっか。送って行くよ」
「いっ、いいよ! てゆーか、嫌なの」
あんまり甘えちゃうと、踏ん切りつかなくなるから…。
「あ、そう、だね。……別に、ただの罰ゲームなんだもんね。“モサ男”に告白するって…結構辛かっ——」
「違う!」
大声で遮ることになった。無駄に周りの注目を浴びる。…近藤くんがびしょ濡れなのも、目立つ要因の一つかもしれない、ということは頭の中に浮かばない。