「もっ、もう行こうぜ! この子つれないし!」
「そ、だな!」

 男の人たちは、焦るように走り去っていった。

「……あ、の。近藤くん、ありがと…」

「…よくあるの? こういうこと」

「えっ、まあ…」

「ふぅん…」

 近藤くんは少し、何かを考えるような仕草をしてから、「じゃあついてこい」と言う。…命令形? なんか、いつもの近藤くんじゃないような……。

 そんなことを考えている間にも、近藤くんは先に行ってしまっている。

「…速い?」

「ちょ、ちょっとだけ…」

 わ、私の心臓の音も速い。

「…ごめん、ちょっと、先制をしておかないとと思って」

「…?」

 先制?

 …なんの?

「…期待しちゃいそう。そんなの、無駄なのに」

「…なんの?」

「……ううん、聞かなかったことにしてよ」

 どういう意味だろう?

「ほら、行くよ」

「うっ、うん…!」

 なんだか、私ばっかりが緊張してる気がする…。

 水族館、楽しみだけど。

 近藤くん、魚好きか聞いておけば良かった…。

「す、水族館、これ、チケット…」

 全く言葉になってない。緊張のしすぎだ、私。これじゃあ、ただ単語を並べてるだけじゃん。

「ん、あんがと」

 一枚取って、近藤くんが言う。

「いくらだった?」

「あ、いいよ。付き合わせちゃってるわけだし…」

「でも行くのは僕なわけだから。なんなら、僕は男だし、日名瀬さんの分も払わなきゃいけないと思うんだけど」

「いっ、いや! そんな…っ。じゃあ、360円…」

「はい、じゃあ720円」

「…じゃあ、おつりの360円…」