誰かが走ってくる足音がした気がした。
「…はあっ、離してください」
私の腕を掴む男の人の腕を、近藤くんの右手が掴んでいる。
「こん、ど…く……」
急に、なぜか、声が出るようになった。
近藤くんの目が、一瞬こっちを見て、優しく細められた。大丈夫だよ、とでも言うような。
どうしよう。
私、今、涙がこぼれ落ちそう。
「へぇ? あんた、誰?」
男の人が、軽く笑う。
「…クラスメイトです」
近藤くんが睨む。
「彼氏でも友達ですらなく、クラスメイト? ちょっと、引っ込んでてくんない?」
「しゃしゃり出てくんなよ」
「しゃしゃり出ますよ」
ぐっと、近藤くんが詰め寄る。
「今日、この子とデートなんで」
……っ。
「は?」
「え、クラスメイトってさっき言ってたじゃ——」
「あんたらこそ」
一回、言葉を切ってから、ギロリと睨んで、近藤くんが言う。
「——引っ込んでてくれますか」