「はあっ、はあっ…」
息を切らしながら、私は走る。
サッカーの練習試合で、私はとてつもないミスをしてしまった。何をしたのかというと、なっちゃんに声が似ていたせいで勘違いして、敵チームの人にボールをパスしてしまったのだ。その男の子は困惑してたけど、そこから華麗にロングシュートを決めちゃった。そこから流れが変わって逆転。
いつもなら、あんなミス、絶対しないのに。
——『あとでグラウンド10周ね』
試合が終わったあと、皆を慰めていたところに割って入って、私にそう言った優馬(ゆうま)。
慰めも怒りをぶつけることもなく、ただ私の近くに来て、それだけ言って向こうへ行っちゃった。そのことから、練習試合とはいえ私に超怒ってるってことが、分かった。
「はぁっ…、…っ………」
いつのまにか口で呼吸し始めていることに気づいて、慌てて吸う時は鼻、吐く時は口に直す。一度乱れ始めた息づかいは、急に直すと、だいぶきつい。でも今息づかいを直さないと、あとあともっときつくなるから。
落ち始めていた腕を、ぐっと曲げて、腰より下にいかないように振る。きついけど、体力温存のため。エネルギーを、保存するため。
下を向きがちになっていた視線を、ぐっと上へ上げる。するとそれだけで、ほんの少し…ほんとにほんの少しだけだけど、視界が開けて情報が入ってきて、気力をつけられた…ような気がする。
走るのは10周。…あと2周。
長い。けれど、やらないと。
心の中で自分に喝を入れて、乱れた足並みを正す。本来長い距離を走る時はペースを落とさず、を意識することが私にとって1番合った走り方だってことは分かっている。ペースを落とさず、上げることは考えず、でもスピードは維持して、走る。
…あと1周。頑張れ、私。
ゴールが見えてきたので、上げられるだけペースを上げる。…マラソン大会でもこの走り方して、ギリギリで1人抜いたんだっけ、と私は一瞬思った。
